「向こう町ガール八景」 衿沢世衣子

 8人の女の子が主人公の短編集。デビュー作「カナの夏」をはじめアックスやコミックHに掲載された作品が収録されています。作者としては2冊目の単行本です。

 オシャレで力の抜けた作風が特徴です。周囲への違和感を感じてちょっと捻くれているけれど自由に生きているキャラクタがたくさん登場します。またストーリーもありきたりな既存のものに縛られずに自由に展開していきます。確かに編み物が趣味の男子を登場させることができる時点で勝ちでしょう。

 作者は、女子校の出身らしいですが、友人との他愛もない会話や先生に付けるあだ名なんかが自然で、学生生活の雰囲気の描写が上手いです。ちょっと特別なことがあっても、日常は何も変わらないという、ある意味ではムダな学生生活です。

 個人的には、離婚して家を出て行った母親が突然家に帰ってくるという話の「オムレツ」が作者の味が一番出ていて良かったと思います。気まぐれで勝手気ままな母親を登場させつつも、嫌な感じにさせないのは作者の技量でしょう。やっぱり独特の雰囲気で物語を展開させることが出来る人だと思いました。

 すべての作品に共通する感覚ですが、一般的に求められているような分かりやすさではないかもしれません。しかし表現しようとしていることがそのよく分からない部分なので、それは仕方ないだとも思います。これからどうなるのかが楽しみな漫画家の一人です。アックスでのよしもとよしともとの対談でも言われていましたが、きっかけがあればもっと売れるタイプの漫画家なのかもしれません。少し小田扉を思い出しました。