「マンガ嫌韓流」 山野車輪

 やっと読みました。流行りモノということで、どうしても否定的な目で見ながら読んでしまうのは仕方ないですね。もともと難しい問題であるのは確かだし、この問題自体に意見できるほどの知識も持ち合わせてないので、感想を書こうとすると結局アラ探し的な文句になりそうですが、読んでみて感じた事を書いてみたいと思います。

 まず第一に、この本がここまで評判になった理由は、韓国との軋轢に対して多くの人が興味を持っていたからというよりは、当たり前の事ですが単純にこの本がマンガだったからということが大きいでしょう。かくいう私もマンガじゃなかったら買っていたかどうか分かりません。内容を理解しなくても簡単に読み進められる手軽さがポイントです。

 ただし、このマンガ的な表現方法が違和感も生み出しています。敵に当たる韓国側の人間に対して悪意を加味して、醜悪な表現で描く様は、どうみても中立的な立場からの表現ではありません。論議する上での一番のタブーである感情論が入り込んでいるとしか思えません。細目と頬骨を強調した顔で常に「にだー」と喋らせる。これはチビで出っ歯でスーツを着てカメラを首からさげた日本人の表現と同じことです。それが差別になるからやめるべきだとは言いません。茶化してネタとして扱う分にはそれも許されるでしょう。日本人がそういった日本人観に怒るのも大人気ないことです。しかし、真面目に問題を論じる際に適当な表現方法ではありません。

 おそらくこれは、本の趣旨が真面目に韓国との問題をマンガの表現を用いて論議するというよりは、商業面を意識してセンセーショナルな表現方法で対立関係を伝えようというものだからなのでしょう。MMR的なノリの箇所も随所に見られますしね。個人的には、それはそれでいいと思うですが、読む側はその事を意識して読む必要があります。娯楽本的な側面があるという事を理解しないで、本の主張に従って過剰に韓国を敵視して嫌うことは賢いこととは言えません。この本を鵜呑みにして、影響されるような人間が現れない事を祈ります。

 このような対立問題を論じる際に敵味方を分かりやすく描き分けて自己の正当性を主張する表現方法は、小林よしのりの「ゴーマニズム宣言」と同じ手法ですね。そういえば、作中の文章で小林よしのり先生という記述がありましたが、やはり作者は影響を受けているということなのでしょうか。

 そして、この本の最大のポイントがネットをやる人間とやらない人間との差、いわゆるデジタル・ディバイドの存在です。本の中でも西村幸祐という方が言及していましたが、このことはこの「嫌韓流」の存在自体にも影響があります。この本の感想でよく聞くものに、『どれもネットでは散々言い尽くされたこと。それをまとめただけ』というがあります。しかし、ネットで韓国ネタに頻繁に触れている人間には聞き飽きた当たり前の事でも、ネットをやらない人間にとってそうではないのです。

 例えば、オタク論やサイト論のようにネットをやる人間と相性がよく活発的に論議されていることも、それを追っている人間と追っていない人間とでは認識や基礎知識に大きな差が生まれています。別にオタク論やサイト論ぐらいなら興味がある人間だけが勝手に論議していればいいことですが、今回の問題のように一般的なニュースになるような話題に関しては、その情報格差の問題が発生します。すべての人がネットを用いて情報の共有化を図るということは、現時点では不可能なことであり、その必要性も疑問ですが、このデジタル・ディバイドを意識する機会はこれからも増えることでしょう。

 そんなこの本の現時点での購買層はどのようなものなのでしょうか。最初はネット通販であるamazonで予約1位になっていたことからもネットを中心にした盛り上がりだったことは明白です。しかしその後、口コミやまた他メディアに取り上げられることでネット以外を情報ソースにして興味をもった購入者も増えているはずです。爆発的なヒットになるためには、ネット上だけで話題になっているだけでは不可能です。既に20万部刷っているという話も聞きますが、これからどうなるのでしょうか。もっと一般層まで広がり続けるのでしょうか。

 この本を読んで竹島の名称に関することなど、今までなんとなく知っていたけれど詳しくは知らなかったことを、知ることができたという意味では、勉強になったとも言えると思います。他の人の話を聞く限り、細かい部分での誤りや過剰な演出はあるかもしれませんが、内容の大筋は基本的に間違いはないようです。流行りモノだからと言って、細かい間違いを指摘して、本自体を否定しようとしても仕方がないです。過剰な演出が入っているという事を踏まえたうえで、あくまでも娯楽本の1つという感覚で楽しむ方が懸命だと思います。それでも内容の真偽についての議論は当然行われるべきでしょう。それは申し訳ありませんが別の人に任せます。

 今まで韓国に対して好意も嫌悪感も抱いていなかったような人間が「嫌韓流」の影響によって韓国を憎むようになる、このような「嫌韓」ブーム自体にはなんのメリットもないでしょう。別に韓国が嫌いだということに関しては、それでもいいと思います。無理に好きになる必要はありません。しかし、その気持ちを場をわきまえずに集団になり声高に嫌悪感を主張することは賢い人間がすることではありません。そんなブームに踊らされるだけの人間は、無関心な人間よりも性質が悪い存在です。「嫌韓流」を読んだり、ネット上の嫌韓発言に触れた人が歪んだ影響を受けずに冷静に対処できる人間であって欲しいし、自分もそうありたいと思います。

 最後になりましたが、関係資料の紹介です。自分の感想を書く前に、他の人の感想を読んでしまうとどうしても影響されてしまいそうなので、これを書き上げるまでは出来るだけ読まないようにしていたのですが、圏外からのひとこと『で、「マンガ嫌韓流」の内容はどこまで信じていいの?』は、2chのスレが上手くまとまっていて興味深かったです。紹介させていただきます。