「コミックビーム 1月号」

 表紙と巻頭カラーは鈴木みそ「銭」です。表紙の画像は、作者のサイト『ちんげ教』にあります。タイトルで完全に隠れてしまっている中央部も、ちゃんと人物が描かれています。
 志村貴子放浪息子」は休載ですが、読み切りがたっぷり載っておりバラエティに富んだ刺激的な雑誌でした。そんな中で連載作品では「エマ」と「群青学舎」がよかったです。
 森薫「エマ」は、一筋縄ではいかない社交界の人間たちを相手に、ウィリアムとエマとが2人の道を歩き始まるという話です。魅力的なキャラクタが登場して心躍る展開が続きますが、エマがメガネを買い替えるだけの場面にあれだけコマを割くという作者の心意気が一番素晴らしいです。
 入江亜季群青学舎」は、天然おっとり系の先生がノーブラだという噂が流れて沸き立つ子供たちの話。先生も色っぽいですし、読んでいて引き込まれました。この話を読んで単行本が出たら買う事を決めました。
 以下、今月号の読み切り作品です。
 きなみなみ「いばしょのない場所」。海水浴場で不思議な世界に迷い込んだ兄妹の話。抱えきれない鬱憤を溜め込んだ兄の心情と無慈悲で残酷な展開が印象的でした。
 佐々木一浩「恋のボフェッティ」。雪に囲まれ外界から隔絶された場所で、インディアンのように精霊を信仰して暮らす老婆と外界に思いをはせる少女が主人公です。木葉功一を彷彿とさせるリアルに描き込まれた絵が特徴的です。完成度の高い作品なので、他のマニア系の雑誌ならどこでもいけそうな気がします。
 河井克夫安永知澄「私の好きなもの」。正確に言うと読み切りではないのですが、集中連載の第2回です。父親の秘密を聞いた主人公の女性が、東京に出て暮らすうちに段々と変わって行く様子が、印象的でした。次回が最終回とのことですが、この後どのように続くのか、幸せな結末を迎えるのか気になります。
 カイトモアキ「三角心中」後編。うまく学校に溶け込めなかった3人の女子高生が心中をしようとする話ですが、カイトモアキらしいパワフルな思考と行動力を持ったキャラクタがいいです。結末は、まあ普通かな。
 ももな哲「桜の頃」。兄が人殺しで捕まった主人公の女子高生が、学校で苛められながらも3年間耐えて卒業して東京に行くことが決定する、その見送りに来た3人のオタクのクラスメートとのやり取りを描いた作品です。このラストの展開は痺れました。いい話です。
 2005年11月号に掲載された「ばかねこ」でも、コミカルな描写と切なさが上手い比率で描かれていて読みやすく仕上げられていたのですが、今作では動物キャラに頼らず人間キャラのみで展開していたことが良かったです。是非、新しい作品も読みたいです。
 谷弘兒「夜の瞳」。人を殺したところを娼婦に匿われた男の話。渋いマンガですが、あまり感想はないです。
 前谷至竜「ルパガ」。殺すことでストレスを解消させるための生物ルパガがいる世界。ルパガ自体は、エイリアンのような不気味な風貌なのですが、これを踏み潰して目玉や内臓を飛び散らせて殺すという行為が社会全体で認められている状態が続くうちに、何がタブーなのかと倫理観が倒錯してくるような世界観が魅力です。グロテスクな描写と普通の恋心の描写が同居している違和感も印象的でした。本当に不思議なマンガです。
 奈良佳子「月とスッポンチョ」。ウサギの女子中学生が主人公の話。自分に自信が持てず、信じることが出来ない女の子が告白されることで、悩みながらも自分を見つめていきます。心情の描写をはじめ、表現方法や小物などのアイテムの使い方も上手いです。作者は、ももな哲と同様に2005年11月号に掲載された「奥さんコメ屋です」でデビューした方です。デビュー作もそうですが、完成度の高いマンガを描く人です。
 読み切りが多いと長文になってしまい大変でした。読み切りの感想は、人に伝えるためというよりは、どちらかというと作品名と作者名を記録してその内容と感想を書くことで、後で自分が振り返って思い出せる資料として書いている面が強いので、どうしても長くなってしまいます。すぐに書く気になれなかったのも、大変なのが分かっていたからです。どうにか書き上げることができて安心しました。